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特別企画

働く女性? 専業主婦? 「恋愛しない若者たち」

国立社会保障・人口問題研究所に聞く「現代の若者の恋愛と結婚」とは?

4月から、いわゆる「女性活躍推進法」が施行されました。
先日の報道でも、将来、課長など「中間管理職以上」を目指すと答えた新入社員の女性は、なんと53%もいた、とのこと(16年 明治安田生命調べ)。これは、4年連続の増加だそうです。

一方で、「専業主婦願望」が強いとも言われる20代女性。複数の民間調査でも、3~4割前後は「専業主婦に(なれるなら)なりたい」と答えています。
いったいホンネはどちらにあるのか。そして、現代の若者の恋愛や結婚観、働き方とは?

……人口や経済、社会保障の観点から、結婚と出産、それに伴う働き方についても経年調査を続ける、国立社会保障・人口問題研究所の森田朗所長と、金子隆一副所長、釜野さおりさん(人口動向研究部)に、私・牛窪がお話を伺いました。

「失われた10年、20年」が未婚男性に与えた影響

――他方、今回の本にも書いたのですが、未婚男女は増えても「いつかは結婚したい」と考える男女はさほど減ってはいません。
貴研究所の調査でも、「いずれ結婚するつもり」と答える男女(18~34歳)は、87年時点(第9回調査)の男性91.8%、女性92.9%と比べて、10年時点で同86.3%、89.4%と、依然として9割近くいますよね。

それなのに、結婚どころか、近年は「恋愛しない若者」も目立ち始めた。この辺りはどうお考えですか?

森田:要因の一つは、ライフスタイルの多様化にあるでしょう。これはいいことでもありますが、「結婚するのが当たり前」だった時代は、「しないこと」へのプレッシャーが大きかった。でも近年、「しない派」がある一定数を超えたことで、何が当たり前かという規範がなくなった。その結果、「結婚しない人生」も選択肢の一つになった。

金子:恋愛についても、生身の異性(リアル)以外に選択肢が増えた点が大きいと思います。90年代後半から00年代にかけて、二次元も含めて恋愛の「代替」となり得るものがいろいろと登場した。

我々の先の調査でも、「結婚を考えたときに気になること」を聞くと、「余暇や遊びの時間を自由に取れるか」が、男女共に5割前後もいます。これは推測ですが、とくに昨今はゲームやインターネットなど、一人でもある程度楽しく快適に過ごせる環境になりましたよね。

――ですよね。私も拙著(「恋愛しない若者たち」)に書きましたが、恋愛が必需品ではなく「嗜好品」になった。今は20代男性の約8割、女性の約6割にカノジョ、カレシがいません。
現20代男女への取材で「なぜ恋愛しないの?」と聞いた際も、「だって、ほかに楽しいこと(ゲームやネット、SNS含む)、いくらでもありますから」との回答が本当に多かったです。

金子:一方で、見逃せないのは男性の「就業状況」と結婚への思いの関係です。女性も10年の段階では、非正規(パート・アルバイト)より正規職員のほうが1割ほど多く「結婚することには利点がある」と考えていますが、男性ではそれ以上に、就業状況による違いが明らか。
正規職員で「結婚することに利点がある」は7割近くいますが、パートアルバイトでは55.5%、無職(家事)では45.8%しかいません。

――さらに今回、私が本を書くうえで衝撃的だったのは、結婚どころか恋愛も、非正規の男性ほど「自分には無理」や「そんな身分じゃない」と考えていたことです。
内閣府の調査(11年「結婚・家族形成に関する調査」)でも、20代、30代男性の「恋人アリ」は、非正規では正規の半数程度かそれ以下しかいない、という状況でした。



内閣府「結婚・家族形成に関する調査」2011年 より

森田:せっかく近年、若者の間で「家族願望」が高まってきたのに、男性、とくに非正規の男性にとっては、バブル崩壊から四半世紀以上経っても「結婚しても大丈夫な世の中」にはならなかった。雇用や金銭面での不安は、むしろ高まりました。
失われた10年、20年の間に、若者にもう少し安心感を感じさせる世の中になっていれば、恋愛や結婚への意欲も違ったかもしれません。

なぜ婚姻率が伸びないのか?

――そんななかでも、冒頭のとおり、女性は非常に結婚に対して現実的になっていますよね。民間の結婚紹介(相談所)などに取材しても、バブル期の女性達が「三高(高学歴、高収入、高身長)」を求めたのに対し、現代女性は私が「三平(平均的な年収、平凡な顔だち、平穏な性格)」と呼ぶような男性を求めるようになった。

にも関わらず、婚姻率が伸びないのはなぜでしょう。

釜野:一つは、理想と現実のギャップだと思います。いくら求める相手が等身大になったとはいえ、当然ながら誰でもいいわけではありません。理想の結婚像と現実に出会う相手の間には、やはり少なからず違いがある。

――なるほど、確かに貴研究所の調査を見ても、女性でライフコースの「理想」に「専業主婦」をあげる人は、減ったとはいえ、いまだに2割近くいますよね。でも、男性がパートナーに望むコースで「専業主婦」は1割程度。「再就職」と「両立」コースが圧倒的で、合わせて7割以上にものぼるようになってきた。

その割には、日本企業がまだワークライフバランスを徹底しているとはいえず、育休を取る男性もいまだに2~3%のみ。女性の仕事への理解や家事・育児協力も、女性が思い描く「協力体制(夫婦でシェア)」とは隔たりがありますよね。

金子:もう一つ、恋愛面も含めて言えば、男性と女性のギャップも大きいと思います。
例えば、「性経験」に関する問いかけ。男性は、87年以来どの年代でも「性経験アリ」の割合がほとんど変わっていませんが、女性では20歳以降多くの年代で、87年時点より2割程度「経験アリ」が増えています。

とくに20~24歳女性では、87年の31.9%が、10年には54.9%に。18~19歳女性でも28.1%と3割近くが経験者で、これは同年代男性(26.0%)を上回る状況です。

――複数の民間調査でも、やはり同じ傾向が出ていますよね。ただでさえ、思春期までは女性のほうが「大人になるのが早い」と言われますから、女の子からすれば同年代の男の子が頼りなく見えてしまうのでしょうね。
だからこそ、「年の差恋愛」や「年の差婚」願望も高まってきたのだと思うのですが……。そんななか今後、未婚男女の間で恋愛や結婚への意欲が高まることはあるのでしょうか?

金子:私達もそれが知りたくて、新たな調査では「一生結婚するつもりはない」と答えていた男女が、何かをきっかけに変わる可能性があるのか、も含めて見ています。
ぜひ今秋の調査報告に、ご期待ください。

――今日はどうも、ありがとうございました。

拙著にも書きましたが、「恋愛・結婚しない」のは個人の自由。それを大人達が強制するのは、明らかにおかしいと思います。
ただ一方で、未だに「いつかは結婚したい」と考える男女が約9割いる状況を考えると、「恋愛しなくても結婚できる」社会を提示する責任が、我々大人にはあると思うのです。

今回、森田所長の「男性にとって、バブル崩壊後の世の中が「結婚しても大丈夫な世の中にはならなかった」とのひと言がとても印象的でした。(牛窪 恵)

「恋愛しない若者たち」についてはこちらをご覧ください

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